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彼は作家としても人間としてもぼくはすごく興味があるし、自分がもっと早く大人になっていたら、三島由紀夫に猛烈アタックしたかもしれないくらい彼のことが好きなので、ここまで来ると、好きとか嫌いという話ではなく、ほとんど「愛」に近い感情を抱いているのではないかと思う。
さて、一般的に三島好きに太宰好きはいないと言われている。
一説によると、二人はどうも仲があまりよろしくなかったらしい。
真意の程はわからないのだが。
確かに二人の作品は対照的だ。
人生に対して絶望し、すぐに何かあると屁理屈を言っていじけてしまい、「生まれてきてごめんなさい」的な太宰に対して、何事にも情熱的に取り組み、自らの性癖すらも肯定し、「仮面の告白」までしちゃう三島は激しい憤りを感じていたに違いない。
だから、ぼくも、太宰の作品はちょっと読んだだけでアレルギーを起こし、学生時代はほとんど読んでこなかった。
太宰を素直に読めるようになったのは、大人になってからである。
ぼく自身も許容範囲が広がったからなのかもしれないが、太宰の描く登場人物たちのダメダメさ加減というのは、人間の根源的な部分に通じる共通のものであり、そこを認めることができるようになったから、なんじゃないかと自己分析している。
昔はそういう自分を認めたくなかったから、拒絶反応を起こしていたのかもしれない。
特に「斜陽」の冒頭部分で「お母さま」が出てきただけで、ぼくは子ども心に「うわ！
お母さまってなんだよ！
気取ってんじゃねぇよ！
」と反発して、たったそれだけのことで「太宰、だめ！
」となっていたのだが（なんて心の狭い子どもだったんだろ！
）、大人になり、この物語の背景を知れば、それは受け入れられることであり、そこに逆に耽美的なものも感じられ、自然と頭にその情景が蘇ってきた。
そして、一気にこの作品の世界に入り込めたのである。
さらにこの作品が発表された時期の日本の社会的背景を考えれば、太宰がこの作品を描きたかった動機も理解できる。
「斜陽」が発表された昭和22年というのは、華族制度が廃止された年でもあるのだ。
ここに「斜陽」の明確な意義を見出せるのではないだろうか。
この作品全体に漂っているのは「退廃」と「絶望」である。
しかし、それを非常に客観的に描いている。
坂道を転がり落ちていくような登場人物たちの姿を小説という形でとどめておきたいという太宰の気持ちが作品全体に溢れている。
「斜陽」という言葉から我々はついついネガティブな印象を受けがちだ。
あとは落ちていくだけ。
しかし、よく考えてみると、日は傾いているけれども、美しい光に彩られているのが斜陽だ。
そして、この斜陽には二つの意味がある。
一つは夕陽のこと。
もう一つは、昔は勢いのあったものが時代の変化によって衰えていくこと。
太宰はその二つを作品の中で描きたかったのだろう。
ぼくは、この作品の中の影の部分を美しく彩る夕陽を色にしたいと思った。
単なる明るいオレンジではなく、どこか憂いを帯びたオレンジ色で「斜陽」の世界を表現してみた。
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